よくあるトラブル——マジックカットのスプレーが出ない! 原因と対策
コラム「よくあるトラブル」シリーズでは、お客さまから寄せられるさまざまなトラブルについて、何が原因か、どうすれば直るかを解説します。今回はマジックカットのスプレーが出ないトラブルについて。
まず疑うべきは、噴射管にゴミが詰まっていないか?
切削加工時に刃先の給油冷却を行うセミドライ給油(MQL)装置「マジックカット e-ミスト」。シンプルで使い勝手のいい道具ですが、長く使っているとスプレーが出なくなることもあります。そんなときの原因として多いのが、以下の6つです。
液通路にゴミが詰まっている
エアノズルにゴミやカスがたまっている
エアノズルが破損している
エアノズルに別の部品をかぶせている
噴射管根元のP-2 Oリングが付いてない
ピストンバルブのグリスが切れている
一つずつ見ていきましょう。
液通路にゴミが詰まっている
マジックカットは切削加工の現場で使われる給油冷却装置です。そのため、加工時に発生する切粉やゴミが装置内に混入してしまうことは珍しくありません。PTFE製の液管は内径1.5ミリと細いため、微細なゴミが詰まっただけでも、スプレーが出なくなってしまうことがあるのです。
そこで「スプレーが出ない」と思ったら、まず噴射管(フレキ管)を外しましょう。噴射管は二重になっていて、真ん中の細いPTFE管が液の通路です。この液管に向けて、エアダスターで強いエアを吹き込んでください。液管内のゴミが原因の場合、これだけでも問題が解消することがあります。
ゴミがたまりやすいもう一つの箇所が、アトマイザ(長方体のボディ)の液入口です。継手を外したところにカスがたまっていないか見てください。カスがたまっている場合、洗浄液やシンナーを染み込ませた綿棒でかき出してください。液入口のカスは主に、アルミ製アトマイザの腐食や切削液成分の分離により発生します。
また、カスが容器から混入することもあります。液容器にストレーナやフィルタは付いていますか?ストレーナやフィルタがあれば、油の補充時にゴミが混入することを防げます。(ルミナで販売する重力式容器や圧送タンクにはすべて、ストレーナまたは液用フィルタが付属しています)
エアノズルにゴミやカスがたまっている
噴射管やアトマイザの液入口に異常がない場合、次にエアノズル(先端のキャップ)に問題がないかを疑います。噴射管先端のキャップを外し、内側をのぞいてください。ゴミがたまっていませんか?ほとんど気づかないような微細なゴミでも、スプレーの流れを阻害する可能性があります。念のためシンナーや洗浄液に浸けて、すすぎ洗いしてください。
エマルジョン系の水溶性切削液の場合、液自体が悪さをすることもあります。切削液の成分が分離し、エアノズルの内側に膜を形成してしまうのです(分離が起きるかどうかは切削液の品質によります。ルミナの純正オイルAM-70では、こうした問題は確認されていません)。この切削液由来の膜は肉眼では確認できませんが、細い金属の棒などでキャップ先端部の内側をこすると、カスが出てくるのでわかります。このような膜はスプレーの流れを阻害する可能性があるため、洗浄液を使ってきれいにこすり落としてください。上述のように、切削液由来のカスは、アトマイザの液入口にたまることもあります。
エアノズルが破損している
もう一つ多いのが、エアノズルの破損です。マジックカットは加工点のすぐ近くでスプレーを吹き付けるため、エアノズルが工具に接触して削れてしまうことがあります。破損していると、スプレーの流れが乱れて出なくなることがあります。エアノズルは部品販売をしていますので、新品に交換してください。
エアノズルに別の部品をかぶせている
噴射管の角度を変えたり長さを延長する目的で、自作のアルミパイプなどをエアノズルにかぶせているお客さまがまれにいます。こうした改造も、エアの流れを阻害しスプレーが正常に出なくなりますので、おすすめしません。改造すると液量多め、エア圧高めの設定にしないとスプレーが出なくなり、油を大量に飛散させて周囲を汚してしまいます。
エアが容器に逆流する原因は、Oリングの紛失
噴射管根元のP-2 Oリングが付いてない
購入してから今まで、一度も噴射管を外したことがない場合、この項目については気にする必要がありません。しかし、リスト1つ目の「液通路の詰まり」と並んで、もっともよくあるトラブルです。特に「スプレーが出ないうえ、エアが容器に逆流している」という場合、このOリングが関係している可能性が高いです。
噴射管をエアブローしている下のイラストをもう一度ご覧ください。PTFE管に付いている小さなOリングがP-2 Oリングです。このOリングは固定されていないため、噴射管を外したときにポロッと取れてしまうことがあります。Oリングは液通路とエア通路を分離する役割を果たしているため、なくなると、エアが液通路に流入してしまいます。本来噴射管の先端に向かっていくべき液は、流入してきたエアにより逆方向に押し戻されるため、スプレーが出なくなります(エアだけは出ることが多いです)。このOリングも部品販売していますので、紛失した場合は購入して付け直してください。
ピストンバルブのグリスが切れている
最後に考えられる原因がピストンバルブの動作不良です。ピストンバルブとは、アトマイザに内蔵されているコマのような形のバルブです。オフの状態では、このバルブが液通路をふさぐことで油を止めています。0.2MPa以上の圧力のエアを入れると、ピストンバルブが上がり、液通路が開きます。ピストンバルブにはOリングが付いていますが、このOリングのグリスが切れたり膨潤したりすると摺動性が悪くなり、エアを入れてもバルブが正常に開かなくなることがあります。
Oリングは構造的に液に触れない箇所にあるため、一般的な切削油を使用しているかぎり、グリス切れや膨潤が起きることはまれです。ただし、長年の使用による摩耗で液体が侵入し、グリスが取れたり膨潤していることがあります。上記5つのどれを試しても改善しない場合、ピストンバルブの状態を確認してください。アトマイザ上部の切削液調節器を外すと、ピストンバルブを引き抜くことができます。ピストンバルブ上部のつまみを手で持って、アトマイザ内で動かしてみてください。なめらかに動かず、引っかかるような抵抗があれば、ピストンバルブを新品に交換してください。
マジックカットのスプレーが出ない6つの原因を解説しました。これらの原因に当たっても改善が見られない場合、こちらよりお問合せください。お客さまの症状を伺い、改善をサポートいたします。